石庫門
7月のTop Page Photoは、上海新天地の路地、「弄堂」(ロンダン)。
新天地は上海の新しい観光地として今や最先端をいく人気のスポットだ。
上海近代建築で有名な「石庫門」建築を改造し、娯楽施設として2001年にオープンしたのが上海新天地である。“レトロ”と“モダン”の融合は、上海の街の面白さの要因をよく表しているのだと思う。
19世紀末、上海では武装蜂起や農民一揆が相次ぎ、多くの外国人や上海周辺の豪商、役人たちは戦乱を避けるために上海の一角に逃れて避難所を建設した。そして戦乱の終息後もそこに多くの人々がやってきて定住するようになり、1920~30年にその地域に共同住宅が多く建てられた。それが「石庫門」で、枠を石でつくった門があることが名前の由来だという。そんな経緯から「石庫門」建築は、中国文化と西洋文化の双方の影響が見て取れ、様々な文化が融合した独特の雰囲気を持つ集合住宅となった。
ここ数年は石庫門住宅に住む人々が、郊外に造られた新しい住宅にどんどん移住している。「石庫門」はその歴史的使命をほぼ終えたといえる。そんな集合住宅「石庫門」が現代の流行を取り入れたバー、レストラン、ブティックや映画館として、若者を中心に人気の高い商店街へと再生したわけだ。
このように、歴史的建築の「転用」を試みて再生する事例は、「石庫門」を持ち出すまでもなく数多く存在する。「転用」をするということは生産物をそれまでの経済的・社会的組織の諸目的からいったん引き離し、それを再投資することを意味し、同時に既存の欲望をまず解き放つことで、とても自由で期待感にあふれる雰囲気を訪れる者に与えている。結果、上海では多くの人で賑わう魅力ある街並みとなり「石庫門」建築の一部はとりあえず残されることとなった。
最近ではリノベーションと呼ばれる再生の手法も一般に認知されつつあるが、この「石庫門」→「新天地」のような事例をみると確かに楽しい。ただ、カッコよさそう、面白そう、楽しそうといった無邪気な気持ちで溢れている。多分ここを訪れる観光客は「石庫門」建築の時代背景など気にも留めないだろうが、はたしてこれでよかったのだろうか。
古い建築を「転用」して再生すること自体はすばらしいことだと思うが、こうして再生された古建築を見るたびに、その建築の文化や思想までもがきれいになくなっていることに少し違和感を覚える。