朝倉彫塑館
昨日放送のテレビ東京「新美の巨人たち」という番組で『朝倉彫塑館』が取り上げられました。
長野では視聴できないので悔しいのですが、朝倉彫塑館はとても好きな建築のひとつです。
「アサクリック」という謎の言葉と共に、朝倉彫塑館を紹介した昔のブログを再掲します。
「アサクリック」とは芸術家 朝倉文夫が書き遺した、彼の建築に対する考え方を表す謎の言葉だ。
朝倉彫塑館はJR山手線日暮里駅西口から徒歩3分、御殿坂を登った谷中墓地近くにある芸術家 朝倉文夫の記念館である。
朝倉文夫自身が独創的な発想で設計した建物で、RC造のアトリエや日本庭園、数寄屋づくりの木造建築などが一体となったユニークな佇まいをみせている。
この朝倉彫塑館ができるまでの経緯も含めて、館全体が朝倉芸術作品であり、大変興味深い空気感を持つ建築のひとつでもある。
この建築の建設は明治40年の掘立小屋の建設から始まり、昭和10年に現在の姿に至るまでに7回の増改築を繰り返している。
その都度、必要用途要求に合わせた異質な要素、材料を併存、統合するプロセスを経て現在に至るのだが、そこには増築を繰り返した老舗旅館のような強引さも、予定調和的なまとめかたも存在しない。
まるで、一人の人間の紆余曲折する人生や考え方の変遷を綴った物語のような統一感がある。
しかも、さらに驚くべきことは、最後の建設時に館のほんの一部である旧アトリエだけを残し、他のほとんどの部分は新築し直していて、厳密には現在の朝倉彫塑館は増築の重なりによってできたものではないということである。
そして奇妙なことに朝倉はその最後の建設を、解体した既存の(それまで増築を繰り返した)姿をそのままなぞるように再現しているのである。
アサクリックという言葉は、朝倉文夫自筆の建設記である「我家吾家物語譚」に記された、この建築への独特な考え方を表すキーワードとして挙げられている。館で配られるリーフレットによれば、この言葉の意味するところは、様々な要素、技術を通常とは異なった方法で組み合わせて、全く新しいものをつくり出してしまう方法「朝倉流技術」という意味らしい。
アサクラ+テクニック=アサクリックという造語のようだ。
そしてアサクリックが数寄屋文化の代表的な考え方である“見立て”という思想に関係しているとも説明している。
自然の風合いを大切にするいかにもわびた表情をもつ数寄屋建築の独特の素材選択の尺度として使われる「見立て」という言葉。
これは日常の何気ないものを設計者の創意によって、全く新しい建築の部分として使ってしまう方法である。
数々の奇妙なるものを、いともすずしく同一環境の中に併存させてしまう数寄の作法は、仏教も神道も併存を続けるような非常に日本的な手法でもある。
日本の近代芸術がヨーロッパの直接的な影響によって育てられていた時代に、朝倉文夫は一度も海外に外遊していない。
それがこのユニークな思想の源なのかも知れない。アサクリックは単にスタイルではない“朝倉”を表現し、同時に“日本”を表現するテクニックだったのではないかと思う。
写真ではなかなか伝わらないこの空気感を、機会があったら是非体験してみてください。